あぁ、もう。
しっかりしなさいよ。
自分に叱咤する。
「失礼いたします」
申し訳程度の声でつぶやき、ドアノブを回した。
「…お呼びでしょうか、社長」
優雅に腰を折る。
自分の顔が映るほどに磨かれた、豪華な大理石の床。
なんて嫌みったらしい。
馬鹿みたい。
「社長はやめろと、前から言ってるだろう」
微かに苦い響きを込めたその声に、フッと口元が緩む。
社長はやめろ―――ね。
「そんな訳には参りません。あなたはこの―…」
「如月」
私の言葉は美しい声で遮られ、仕方なしに口をつぐむ。
私が黙ると、コツコツと靴が大理石の床を歩く音が響く。

