なのに――…
「待て、伊緒」
私が背を向けてしまう前に、男が私の腰を掴んだ。
「どうやら俺たちは勘違いをしているらしい」
勘違い?
フッと鼻で笑う。
「何をです?何も間違いなどありません」
そう。
きっと、ない。
「離してください、社長。私はまだ仕事が…」
「伊緒」
「……はい」
「今から聞く俺の質問に答えろ。いいな?」
質問?
一体何を聞くというの…?
眉を寄せながらも、目の前の私を見つめる瞳に断ることなどできなくて。
「…かしこまりました」
私は頷いた。
別にこの男の温もりが、嬉しかったからじゃない。
離したくなかったからじゃない。
……早く、仕事に戻るためよ。

