【短編】社長の秘書サマ





それをつけられても尚、私を抱こうなんて。


最低よ。


男の風上にも置けないわ。




「こんなところを見られたら、結婚生活に支障をきたします」




でも、そんな男に惚れてしまった私も、最低ね。


大企業の社長ともなれば、婚約者の一人や二人、いたって何も不思議じゃないもの。


こんな一介の秘書を、本気で相手にするはず、なかったのに。


あぁ、もう。


どうしてこんなにも胸が痛むのだろう。




「…伊緒」




そっと抱きしめられていた腕の力が、急に弱まる。


離れていく体温を寂しく思うなんて、なんて未練がましい女…


もう…消えてしまいたい。




「お前、結婚するのか?」




……は?


またこぼれ落ちてしまいそうだった涙が、引っ込む。