【短編】社長の秘書サマ





もう望まない。


そう決めていたのに。


今、この腕の中にいることが幸せでたまらない。


なんて女なのだろう。


だから、せめて。


せめてこれ以上私を、醜い女にさせないで。




「伊緒」




ふっと男の声が落ちてくる。


それと同時に、私は口火を切った。




「もう…いいです。社長たちの邪魔をする気はないので」


「は?」




素っ頓狂な声を出す男。


初めて聞いた、声。


胸いっぱいに愛おしさが込み上げる。


だけど、きっとこれも最後。




「どうか、お幸せになさってください」




そう言って、私は一筋の涙を落とした。