もう望まない。 そう決めていたのに。 今、この腕の中にいることが幸せでたまらない。 なんて女なのだろう。 だから、せめて。 せめてこれ以上私を、醜い女にさせないで。 「伊緒」 ふっと男の声が落ちてくる。 それと同時に、私は口火を切った。 「もう…いいです。社長たちの邪魔をする気はないので」 「は?」 素っ頓狂な声を出す男。 初めて聞いた、声。 胸いっぱいに愛おしさが込み上げる。 だけど、きっとこれも最後。 「どうか、お幸せになさってください」 そう言って、私は一筋の涙を落とした。