【短編】社長の秘書サマ





愛されている、と。


そう、思い込むようになった。


気づいた時にはもう、引き返すことは出来なかった。


私はこの男に溺れていた。



―――そして。



私は現実を目の当たりにする。


私を覗き込む彼の首筋にある、絶対的な現実を。


私は自分自身の愚かさを呪い、自分自身の浅はかさを恥じた。


何も言わずに立ち去ろうとする私を、少し驚いたように目を細める彼。




『もう…あなたの玩具に成り下がるのは、堪えられない』




頬を伝う雫を感じながら、私は彼に言った。


そして、自分の心にその言葉を刻みつけた。


忘れないように。
思い出さないように。


ひび割れていく心に、私は何もすることが出来なかった。