【短編】社長の秘書サマ





ふぅ…と生暖かい息が私の耳を撫でた。


ハッとして私は身をよじる。




「やだ…!離して…」




嫌っ…!


必死で逃れようとするも、相手は男。


勝ち目はなかった。


力いっぱいに抵抗しても、びくともしない。




「やめてっ…」




それでも私は諦めない。


がむしゃらに、私をきつく抱きしめる腕から逃れようとする。




「伊緒」


「や、だぁっ」




ほろほろと涙が落ちる。


泣きたくなんてなかったのに。


目の前に回された腕を掴み、私は歯を食いしばる。




「なんで……っ」




悔しかったの。


認めたくなんて、なかった。


この男の腕に抱きしめられた瞬間、ホッとした気持ちが胸いっぱいに広がったなんて。