カツカツカツ―――。
神経質そうな音を掻き鳴らしながら、10センチ以上もあるヒールで足早に歩を進める。
腰まで伸びた自慢の黒髪を優雅に揺らしながら、私はエレベーターという地獄への門をかい潜(くぐ)った。
入ってすぐに最上階である50階のボタンを押し、もたれかかるようにして壁に背中を預けた。
「…ハァ」
思わずこぼれるため息。
ふと顔を上げた先にあった鏡には、今にも泣き出しそうな私が映っていた。
「情けな…」
ほんとに、情けない。
ついさっき、仕事中に舞い込んできた一本の電話の内容を思い出し、私は深いため息をつく。
「もう…やだ」
つぶやきながら、くしゃりと髪を掴んだ。
あぁ。
帰りたい。