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「まったく、一体どれだけのもんを壊せば気が済むんだい」
ニケは緋色号を労るように手に取り眺める。その様子を見ていたゼルアは、首筋に浮き上がった赤い跡をさすりながら言った。
「俺もそんな風に扱ってくれよ…」
「人には興味がないからね、鉄を眺めている方がよっぽど面白い」
「こんの偏執狂が…」
刹那、ゼルアの真横にニケが持っていたはずの緋色号が突き刺さっていた。何本かの髪の毛と、凄まじい量の冷や汗が地面に向かって落ちるゼルア。彼の前に座り、アカゲゾウの牙を手でもてあそんでいるニケは、清々しいほどの笑顔を浮かべていた。
「まぁ、一晩もあれば直るよ。そこら辺でブラブラしてきな」
「は、はい…そうさせていただきマス…」
ゼルアは壁を這うように鍛冶屋を出る。しばらくは恐怖が身に染み付くだろうと、頭の隅で考えながら。
鍛冶屋を後にし安堵のため息をつくと、鍛冶屋側とは向かいにある岩壁の居住区に視線を向けた。
今、なんか動いた…?
時刻は夜。はっきりとは見えなかったため、よく目を凝らしてみる。すると、一人の人がこちらに向かって手を振っていた。ゼルアよりも小さな少年だ。
「ん?ケイ?」
なんだか呼ばれているような気がして、ゼルアは谷を結ぶ桟橋を渡る。橋の渡り終わった頃、ケイは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた。しかし、その表情は今にも泣きそうな感じだった。
「どーしたんだ?」
「う、うん…ゼルア兄ちゃん、あ、あのね…リ、リオネが…」
「リオネ?確か、ケイんとこの竜だったよな」
ケイは頷いた。
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