そして、夜の10時頃―――
聖の声がいっぱい聞ける時間。
『なぁ、田中さん…?』
「なぁに?」
電話越しの聖の低い声に胸を高鳴らせながら耳を澄ませる。
『俺さ、田中さんのその声好きなんだけど。』
「ふぅん。そう、ありがと。」
嬉しさを声に出さないようにしてなるべく冷静に返事をする。
こんな時、素直になれない、私が嫌いだ。
でも、そんな私の心を見透かしているように聖は
『今、喜んでるだろ。』
と声を出して笑うんだ。
それが、私には嬉しくて堪らない。
「ははっ、バレた?」
『バレバレ。塚さ…』
私が笑って答えると聖も笑って答える。
そして、言葉を途中で切った。
「何?」
『明日…逢えねぇ?田中さんに…梨李亜に逢いたい。』
「…っ、」
心臓が、壊れるかと思った。
普段は下の名前で呼んでなんかくれないのに。
こういう、時だけ呼ぶなんて…本当に、ズルい人。
ドクッ、ドクッ、って尋常じゃない心臓の音が聞こえてきて。
「う、ん。私も、逢いたい――…。」
震える声を抑えて話した。