松野さんとの会話が終わり、わたしは向井くんの机にノートを入れた。
自分の席に戻り、返されたお弁当箱を見つめて、思わずため息がこぼれた。
悪いことをした。
松野さんは何ひとつ、悪いことしていないのに、わたしは勝手にあんなことを思ってしまった。
思っていた以上に、恋は人を変える。
自分を、とても恐ろしく思った。
そして結局、二つのお弁当に手をつけることはなかった。
下校時間になり、玄関に行くと松野さんと彰吾のふたりの姿があった。
「んー、ないな…」
「朝、ここにちゃんと入れたはずなの」
「だって、これじゃないんだろ?」
「これだけど色が違うの。私のはピンクだもん」
傘がないのか、彰吾はいろんな傘を入れ替え見る。
隣にいる松野さんは、困った顔をしていた。

