彼女を追って天使も走り出すけど、光の壁にぶつかって、近付くことが出来ない。


『女、お前が望むのは、メタトロンの幸せだけだ。自分の不幸を恐れていない。
どうして、自分のために命を使わない。お前が無を望まぬなら、記憶を消した後、生命が尽きる時がきたら牢獄へと導かれる。転生することもあるだろう。無になるということが、どういうことか分かっているのか?』

女の人が静かに頷く。

『私は彼を忘れることの方が不幸です。無になること…永遠に続く闇、永遠に続く孤独、永遠に続く苦しみ。でも、彼を想うことは出来る。彼の幸せを祈ることは出来る。すべてを失っても想いだけは残ります。その想いが無くなる方が悲しいのです。』

『そうか…。お前は賢い子だ。出来ればその心を、産まれる子に繋いでもらいたいが…。
お前が望むようにしよう。』

『大丈夫。私でなくてもメタトロンが私の代わりに繋いでくれます。』

『では、光を辿って行きなさい。』

彼女は、ヤハヴェが指射す方へ歩き出す。

『ユリア!戻って来いよ!!』

光に阻まれ近づくことの出来ない天使が大声で彼女を呼ぶ。

彼女は振り返り“フッ”と笑い、一筋の涙を残して光の中に消えていった。