「…時任さんが狼狽えるから何かと思いましたよ」

「あー、ごめんごめん」





はは、と苦笑いの紅音。

あの後、ゴキブリはロゼが陣で一瞬のうちに消滅させてしまった。





「昔は平気だったんだよ。でも、中学の時に顔面にへばり付かれて以来ダメでさ…」

「うわぁ…」





流石にロゼでもそんな過去があればトラウマになる。同情しつつ、見よう見まねだが紅音と自分の分のコーヒーを用意してリビングへと運ぶ。





「どうぞ」

「ありがとう…って、今手動でいれてたね」





きょとんとする紅音にはい。と頷く。





「ここにいる時くらい、少しずつでも自分の力で頑張ってみようかと」

「自分の力でって…コーヒーなんて誰でも出来る事だけど…大袈裟な…」





それは時任さんにとって当たり前のことであって、私にとって当たり前のことではないからこその意見ですよ。

目を瞬かせ不思議そうにする紅音に、ロゼはクスリと笑ってコーヒーを飲んだ。





「…あ。今更だけど、出かけてたんだよな?ごめん、急に呼び出したりして」

「ああ、あんなの全然気にしないでください。むしろ助かりましたよ。心底どうでもいい用事でしたから」

「そ、そっか…」





まあ…あの宰相の事だから、どうせまた呼び出すだろうけど…。

ああ面倒くさい。眉間のシワに気づいていながらも、直す程気持ちが落ち着かずそのままにしてコーヒーを一気に飲み干す。





「よし!では、残りの本も読み干してしまいますね」





とにかく早く、お姉さんを見つけてあげないと!

気合を入れて、借りた本の続きを読み始めた。