ーーーーコンコン.
扉をノックする音に、ミカミは見向きせず「どうぞ」と声をかけた。扉を開けたメイドが、一礼する。その手にはロゼのブレスレットが。
「失礼します。クロッカス様、通信が入っております」
「!」
あからさまに顔色を変えたロゼを見つめていたミカミは、ニコリとすぐに微笑んだ。
「行っておいで。話はまた今度で大丈夫だから」
「……話はこれで終わりですよ」
紅茶を飲み干したロゼは、さっさと立ち上がると形だけの挨拶として、胸に手を当て膝を曲げた。
「それでは、これで」
メイドからブレスレットを奪うと、指を鳴らしてロゼはその場から姿を消した。
「…よろしかったのですか?」
ミカミがカップに口をつけたところで、メイドが静かに問いかけた。
「構わないよ。少し泳がせてみたほうが、色々と分かるだろうしね」
あくまで微笑んだままミカミは言うと、す、とカップに手をかざした。紅茶の色が変わると、そこに映し出されたのは、友人と話している様子の、紅音の姿だった。
「時任紅音くんね…早く会えるといいけれど」
愉しそうに呟いて、ミカミはぽちゃんと、カップに角砂糖を落とした。