朝早くからロゼはある人物に呼び出された。本心としては行きたく無かったが、無視できない相手なので仕方なくロゼが訪れたのは、国の中心でもあるお城、グレイシア城。靴音を響かせ速足に辿り着いた、両開きの扉の前で一度立ち止まる。





「お待ちしておりましたクロッカス様」





音もなく歩み寄ったメイドは社交辞令のように笑顔を浮かべて一礼すると、脇に抱えていたトレーを差し出した。





「こちらにブレスレットはお預け下さい」





藍色の布製が敷かれた銀色のトレーを差し出すメイドにロゼは無言で、不服そうに左腕からブレスレットを取り外した。また一礼したメイドは、「主がお待ちです」と、コンコンと真っ白な壁をノックした。すると、扉はゆっくりと開かれ、ロゼは躊躇なく部屋の中へと踏み込んだ。





「急に呼び出して悪かったね」





正面窓際のヘリに腰掛け読書をしていたらしい青年が、穏やかな声でロゼに話しかけた。ロゼの背後で扉が閉まり、部屋に存在するのはロゼと青年だけ。





「しかし、君は呼び出さなくてはこの城に近づかないからね。こちらとしても、情報は早期に耳に入れたい」





バタンと重みのある本を閉じると、本を窓際のヘリに置いて青年は立ち上がった。硬い表情のまま歩を進ませないロゼに向かって、にこりと青年は笑った。





「久しぶりだね、クロッカス。お茶の用意が出来次第、早速話を聞かせてもらおうか」

「…………」





有無を言わせない威圧を感じ取り、ロゼは僅かに表情を険しくさせた。