時任家の前に現れた陣から出て来たロゼは、灯りが点いているのを確認して玄関を開けた。





「おかえりー」





平静を装い速足にリビングへと向かうと、ソファに座っていた紅音がにこやかに声をかけてきた。





「ただいま戻りました」





特に変わりなさそうな紅音の姿にロゼはほっと肩から力を抜いてリビングへと歩み入る。





「何処に行ってたの?」

「私の国の知り合いが来てたので、観光案内してました」

「……………魔法使いも観光案内とかするんだね」

「だから、魔法使いじゃなくて陣使いですって」





紅音からしたらどちらも似たようなものだそうだが、ロゼ的には全然違う。魔法使いというものに会ったことがあるわけではないが、全然違う。

言い直して一人掛けのソファに腰掛けたロゼは、紅音の姉の名前を口にしていた影を思い出す。





「あの、時任さん」

「なに?」

「……お姉さんって、どんな方でした?」





首を傾げる紅音は、急にどうしたのだろうと目を瞬かせた。思えば自分は紅音の姉について名前しか知らないのだ。この際少しでも知っておくべきで、それを踏まえ今回の事を伝えるべきかと考えた。





「どうしたの突然…まぁ、そうだな………物腰が柔らかい。鈍臭いとまでは言わないけど、少し危なっかしい人でさ」





イメージ的には、あまりあの影と繋がりそうな様子ではないな…もしかしたら、巻き込まれたか、唆された…?





「仲はよろしかったんですか?」

「うん、よかったよ」

「そうですか」





にこりと笑顔を浮かべるも、こちらを見つめる紅音の様子から訝しく思っているのはわかった。





「そう言えば、ロゼはご飯食べたの?」





意外にもあっさりと話題を変えた紅音。





「あ…いえ、まだ…」

「じゃあ、ちょっと待ってて。今から温め直すからさ」





立ち上がりキッチンへと向かう紅音の背中を見つめる。気づいているだろうに、紅音は振り向かない。





「…自炊をしていなかったとは思えないほど、時任さんの料理はレベルが上ですよね」

「家庭科の授業に万歳だな」





紅音の気遣いに甘んじて、今回の事は黙っていることにした。