黄昏御伽噺







「っ…………これが、禁書の陣か…」





人の手のような、人の顔のような、人の目のようなものがドロドロと溶ける暗雲から見受けられる。





「ロゼの咄嗟の声と陣で助かったけど、マトモに食らってたらあの世だな」





暗雲はロゼ達に近づこうとするが、ロゼ達を中心に発動する陣から先には入れず触れた場所から煙のように消えて行っている。





「ひっ…うぅ…」

「司波さん、この陣から外に出ちゃダメですよ」





視覚的にクる光景にバランスを崩しかける雪乃をロゼが支える。





「雪乃」





暗雲の向こうから影の声が聞こえ、雪乃はビクリと体を硬直させた。





「願いを叶えたいと言ったのはお前だ。だから叶えようとしただけ…それなのに裏切ったな?」

「唆したお前に、彼女を裏切者と呼ぶ筋合いはないぞ」





言うやエイは流れるように素早く陣を指先で描くと、声と気配で辺りをつけて暗雲の向こうへと投げるように滑らせた。





「…これも新しい陣だな。ここにこれを持ってくるとは面白い形を…組み合わせからして、攻撃系か…」





興味深そうな声が暗雲の向こうから聞こえてくる。





「返すぞ」

「「‼︎」」





風を切る勢いの陣が、暗雲を切り裂いてロゼ達へと放たれた。

ーーーーバチィッ‼︎‼︎





「ほう…」





エイの前へと出たロゼは手を伸ばして飛ばされた陣を受け止めた。ほんの少し影は目を丸くさせ、感嘆にも似た声を漏らした。





「キツ……っ…」

「削除(クラップ)!」





パンッ、とエイが柏手を打つと陣は消えてしまった。





「人の陣を使いやがって…ロゼ、この周りのはどうする」

「どうするも…流石に無理だよ、ここじゃ私もエイも本領発揮出来ないわけだし…」

「まさかここまで出来るなんてな…」





暗雲の向こうで優雅に立つ影を二人は見つめた。





「…そのケープは王宮眷属か…もう一人はブレスレットをしているし、旅団の者か。ということは………もしかしてお前は、時任紅音の契約者か?」





ぎょっと目を見開いたロゼの反応は、肯定しているようなものだった。





「そうか…お前が…」





影は呟くと、先程描いた陣を指先で真っ二つに切った。フッとロゼ達を取り囲んでいた暗雲が消える。





「大方、姉を捜して欲しいと頼まれたところか」

「…どうして時任さんを知っている」





睨みつけるロゼに愉快そうに笑った影は、パッとその場に陣を展開した。ハッとロゼとエイが走り出す。





「「待て!」」

「弟に伝えろ。紫音はもう帰らないとな」





陣の向こうへと影は消える間際にそう言い残した。二人が伸ばした手は虚しく空を掴んで終わり、諦めた二人は大きく溜息を零した。





「完っ全に気配が消えた…もう無理だ」

「…………」

「…ロゼ、お前は契約主のところに帰れ」





思いつめたように難しい顔をしていたロゼは顔を上げる。





「雪乃ちゃんも後始末も、俺に任せろ。心配なんだろ?」

「…わかった」