黄昏御伽噺






鮮やかな赤にも似たオレンジ色をした空は、今はもう闇にも似た濃く暗い青色へグラデーションを作っていた。

病室に備え付けられているたった一つのベッドには、寝息を立てる茉希の姿があった。

音もなくその傍らへと近づく影が茉希へと手を伸ばす直前、部屋の床一面に眩く光る陣が現れた。驚いた様子なく動きを止めた影は、伸ばしかけた腕を下ろして口元に笑みを浮かべるや、浮かび上がった陣と共に姿を消した。





「抵抗なくあっさりと捕まってくれたな」





病室にいた影は、屋上へと移動していた。





「まあ、さすがのアンタも起きたばかりじゃ、そんな力は戻って無いだろうけど」





病室に陣を備え付けていたエイは、無事屋上へと移動させたこちらに背を向ける影を睨む。エイの背後には雪乃を守るようにロゼがいた。





「…………その声には聞き覚えがある」





エイや紅音よりもうんと低い声で影は呟いた。肩にかけた、夜空を溶け込ませたような闇色のマントが翻る。





「やはりな…その顔立ちも、見覚えがある」





エイを映す赤眼がゆうるりと懐かしげに細まった。





「エイ…まさか会った事あるの?」

「そんなわけないだろ。いつの時代の奴だと思ってる…」





エイ自身も訝しげに首を傾げていたが、まあいいかとくるりと指先を宙に動かした。次々と現れる陣に、影は目を瞬かせた。





「さあ、俺らと一緒に帰ってもらおうか」

「見覚えのない陣だな…私が眠っている間にも時代は進んでいるようだ」

「アンタを捕らえるように作られた陣だからな」

「ふむ…」





なるほど。と納得したように一つ頷いていた影がふ、と口元だけで愉快そうに笑った。顎にかけた指先で隠すように笑ったその仕草を、ロゼは見逃さなかった。





「エイ!下がって‼︎」

「⁉︎」

「宝冠に宿りし呪霊よ、虚飾の淵より蘇れ」





その目撃者は市内中の人々だった。まるで幾つもの閃光弾を一斉に放ったような、夜を照らし出す程の巨大な光が病院から発せられた。