図書室には司書の他に、数人程生徒の姿があった。席は空いている。それを確認して、最近ファンになった作家の文庫本を手にした紅音は一番後ろの窓際の席に座った。

時折囁きあうような話し声が聞こえるが、煩わしいとは思わない。逆に煩すぎず、静かすぎないこの空間は、不思議な安堵感をもたらす。





「(あ、携帯の電源きったっけ)」





さっき使ってからどうしたのか気になってしまい、携帯を取り出した。図書室は携帯禁止だ。電源から切らなくてはならない。





「あ」





画面を見て紅音は小さく声をもらす。やはり電源は切っていなかったが、音を消していたから気づかなかったがメールが届いていた。誰からだろうと思い早速メールを確認すると、差出人は姉の紫音だった。

【ちょっと出かけてくるね】





「(?なんでわざわざこんなメールを?)」





長旅や急用ならまだしも。姉はこんな事をわざわざメールするようなタイプだったか?首を傾げながらも紅音は了解の意を送り返し、今度こそ電源を切るとまた本を読み始めた。






時任紅音の姉、時任紫音が己の存在をしめしたのは、これが最後だった。