ーーーー昨夜家へと帰る途中、三年の浅生茉希が通り魔に襲われた。
学校に登校してこの話を聞いた紅音は昨日の今日で驚いた。
「帰り道に背後から塩酸か何かをかけられたみたいで、顔を狙われ咄嗟に庇った腕が大火傷。目の中にも薬品が入ったみたいで、失明の恐れがあるって話だ」
「要くんやけに詳しいね」
「俺の情報網舐めんなよ。かつては新聞部なんかより情報が早く、かつ的確でその筋からは目の敵にされたんだからな」
「今は?」
「無駄な敵の排除が面倒で目立った事はしてないからなぁ。あ、飴食べる?」
排除、の単語が色々気になったがそこは触れない方がいいだろう。差し出された飴を受け取りフィルムをはがして一口舐める。オレンジの味と香りが口いっぱいに広がった。
「警察の方は、あの外見だから何かしらの怨みや恋愛のゴタゴタなんかだろうって思ってるみたいだぞ」
カチャカチャと要は何故かルービックキューブを一生懸命解こうとしている。
「でも浅生茉希って、確かに見た目は目立つが日常生活では浮いた話なかったなぁ。本人がトラブルを嫌っていたから、こんな事件が起きるような事ってすぐ噂になると思うけど…」
「被害者が美人だと要の口が流暢になるのが分かったよ」
「失礼だなお前。お前が目をきらんきらんさせながらこっち見るから話してやってんだろ」
てへ。なんて舌出して笑った途端鳩尾にキックが入った。床へと倒れこむ紅音に声を掛けるものはいない。なんせ要が怖い。
「つーか、いつの間に浅生茉希と仲良くなったんだよ。俺にも紹介しろ……あ、くそっ。全然揃わない…」
「昨日の帰り道」
ひょい、と要の手からルービックキューブを奪う。
「たまたまケーキ屋で意気投合してさ。ほら、俺がよく行くあそこの」
「あー…」
「で、そしたら今日こんな事件だしさ。やっぱり気になっちゃうよねぇ?不謹慎だけどさ」
カチャカチャと手早くキューブを回転させる紅音の手を要は凝視する。