声をかけた張本人を確認した紅音はぎょっとした。





「ロゼ…!?」





服装が変わっていたから一瞬気づかなかったが、紺色の傘をさして笑顔を浮かべ、ぶんぶんと手を振るのはロゼだ。ぶんぶん振る手には紅音のビニール傘が握られている。





「時任さん傘をお忘れでしたので、届けに来ました。どうぞ」

「あ……ああ…ありがとう」





いいえ。そう返したロゼは、ふと紅音の隣で目を瞬かせている雪乃を見た。驚いたように目を見張ったロゼに、紅音はどうしたのかと内心首を傾げる。





「…時任さん、こちらの方は…」

「ああ、後輩の司波雪乃ちゃん。ロゼが来なかったら傘に入れてもらうところだったんだけど…」

「そうでしたか。では、帰りましょう」

「はあ!?」





傘をさっさと開いて帰り始めたロゼの態度にどういうことかと目を瞬かせるが、仕方ないと紅音も傘を開く。





「ごめんね。それじゃあ、気をつけて帰りなよ」

「あ…はい。さようなら」





取り繕うように雪乃に笑って、先の方で待っているロゼの後を追った。隣に紅音が並ぶとロゼは歩き出したが、その空気に紅音は尋ねることに。





「司波さんと知り合いなの?」

「まさか。今始めて会いました」

「じゃあなんでそんな難しい顔をしてるの?」





はっとロゼは目を丸くする。じっと見てくる紅音にちらと、何か迷うように視線を向けたがすぐに変わらない笑顔を浮かべた。





「紅音さんに彼女がいたとは存じなかったので、邪魔をしてしまったと自己嫌悪していたのです」

「……へぇ、そっか」





勿論嘘だろうことはわかった。だが言わないということは言いたくないということ。





「彼女じゃないから、自己嫌悪はしなくていいよ。あと、傘ありがとう。服もね」

「あの服で隣を歩くなと言ったのは時任さんですけどね」