曇天が広がる窓の外を眺める。窓に映る自身を見ると、湿気で心なしか髪がへにゃっている気がする。学生の1日の仕事、勉学を終えた時任紅音は、昼から降り始め放課後になっても止まない雨に憂鬱そうな溜息を零した。
「時任、まだ帰らないのか?」
頬杖をついて窓の外を見つめていた紅音は、上から降ってきた声に顔を上げた。タレ目気味の目を不思議そうにして、紅音とは高校からの付き合いになる竹平要は紅音を見下ろす。
「傘がない」
「ああ…」
たった一言答えただけだが、要は哀れむように紅音と窓の外を見ていた。
「…かっなめく~ん」
「気持ち悪い。じゃあな」
「いやいやいや!普通は一緒にはいっていくか?とか聞いてくれるはず。俺は信じているから」
「傘、俺もないんだよね」
「嘘だ。いつもその鞄の中には折りたたみ傘が入っているということを俺は知っている」
「そっか。明日は体育だからな。早く寝ろよ」
「本当に帰るの!?」
思わずガタリと音を立てて席を立った紅音だが、ピシャン。と無常にもスライドのドアは閉められた。虚しく伸ばされたままの紅音の手に、哀れに思ったクラスメイトの男子が同情するように声をかける。
「あー…時任、入っていくか?」
「……方向真逆だろ?要以外に同じ方向いないし、仕方ないから図書室で時間つぶすよ…」
溜息混じりにそう答えると、リュックを手にし、紅音は教室を後にして図書室にやってきた。