一日の授業も終わり、日直の仕事を終えて帰るべく靴箱に向かって見ると、一人の生徒が廊下を這いずり回っていた。どんな光景だよ、と思わず硬直した紅音は我に返り、素通りしようと思っていたが鼻をすする音にまた足を止める。
「…どうかしたの?」
「!」
弾かれたように振り向いた生徒は、やはり泣いていた。そして顔を見て気づく。柚に今日見せてもらった写真の美少女。一年の転入生、司波雪乃だった。
「何か探し物?」
「……定期券が……」
「定期券?」
「見当たらなくて……」
納得した紅音は手のひらや膝を見つめた。ずっと這いずっていたのか、真っ赤になってしまっている。人の鏡と言えるほどの親切心は持ち合わせてないが、この場を見過ごす程紅音も薄情ではない。
「俺も探そっか?」
「え……いえ、悪いんで…それに、もう校舎は全部探したんで……諦めて、帰るところですし…」
「定期券って事は、電車とか?どこなの?」
聞くと隣の隣の町だった。電車やバスならすぐだし、なんなら自転車でも行けない事はない距離だが、歩きとなると結構キツイ。
「そこまで歩くの?」
「はい……手段、他にないんで…」
「時任くん?」
ふわりと舞い降りるような声に、紅音は聞き覚えがあり振り向いた。雪乃の方も軽く首を動かして紅音の背後にいる美奈を見た。美奈は紅音といるのが一年生だと、ネクタイの青色で分かり、きょとんと首を傾げた。
「どうかしたの?それに泣いてる…」
「俺が泣かせたんじゃないからね?この子定期券無くしたみたいで」
「定期券を?」
「はい……」
悪いことをした子供のように小さくなって頷く雪乃に、安心させるように美奈は微笑みかけた。

