「あー疲れた!」
「二度とマラソンの選択はしない…」
「でも単位いいんだよなぁ」
一斉に自販機や水飲み場に生徒が群がる。グラウンドには数名が力尽きて屍のごとく横たわっていた。
「うわー…明日筋肉痛になってそー」
「風呂上がりとかマッサージして寝ろよ」
ダッシュで自販機に一番乗りした紅音はプルタブを引く。プシュッと夏の空の下で鳴らすにはいい音が響いた。
「……それにしても、暑いね」
冷たい柑橘系の刺激でのどを潤わせて、紅音が遠い目をしてグラウンドを見つめる。もはやオレンジ色に見えなくもないグラウンドの向こうが陽炎に揺らめいて見える。
「まあ確かにな。たった今運動したっていうのを差し引いても暑いだろうし」
「女子はプールか…早く俺らもプールしたいなぁ」
「来週まで我慢だな」
木陰から移動して制服に着替えるべく校舎内に歩き出す。廊下の窓は開け放たれているが、教室の窓は冷房が効いているため閉め切ってある。
「早く冬になんないかな。毎日暑くてかなわないもん」
「お前は冬の時は「早く夏にならないかな」って言ってたよな」
「世の中の誰もが言ってるよ。やっぱり春や秋だね、過ごしやすいのは」
「春夏秋冬、どの季節だろうと過ごしやすいかやすくないかなんて変わらないだろ。春は花粉、夏は暑い、秋は虫、冬は寒い。ほらな?」
「いや、ほらなって……」
真顔で同意を求める要に紅音は何と返せば正解なのだろうと考えるが答えなんか出なかった。

