炎天下のグラウンドでは、男子の野太い声の掛け声が響いていた。
「はーい。あと10周なー」
「う…鬼だ…」
生徒の誰かが呟いた。それに同意する生徒はきっと過半数だろう。ぐるぐるとグラウンドのトラックを走り続け、無情な教師の声に足が一層重たく感じる。
「マラソン大会のためとはいえ、30周はキツいなー」
「そういう要…お前、汗一つ出てないんだけど…」
最後尾で紅音の隣を一緒に走る要は、紅音が言うように汗一つかかず涼しい顔だ。息切れはともかくとして、汗ぐらいは普通だろうと、既に汗だくの紅音は恐ろしいものを見るように要を横目で見る。
「中学校で陸上部のエースしてた俺を舐めるな。こんなの余裕だっつの」
そういえばそんな話を以前聞いたな。いやでも汗は?やっぱり納得できない。
「じゃあ高校でも陸上部すれば良かったのに」
「青春はエンジョイするためにある」
「その青春に陸上は?」
「入らないかな」
「………」
入らないんだ…。
溜息をして、紅音はヘロヘロしながら走る前方に合わせてのんびり走るのだった。