煙突常備の煉瓦造りの家が目立つ町並みは、太陽が青空高くに顔を出した頃に賑わいを見せ始めた。お店は一斉に活動を始め、徐々に活気付いて行き、人々が煉瓦造りの道へと溢れかえった。挨拶をし、笑顔を交わし、笑い声を上げる。濃紺をした制服に身を包んだ子供が、分厚い赤茶の本を両腕に抱えて大人たちの隙間を縫うように走って行く。

賑わう賑わう、グレイシア王国。

王国中央に緑溢れる森を背景に鎮座する、純白と紺碧に彩られたお城。その城下に位置する王都、メルナには『陣使い』と呼ばれる者達が多く集っていた。





「あ、空が青い」





小高い丘には綺麗に刈り揃えられた芝生が広がるばかりで何もないが、空を見上げて呟いた少女、ロゼ・クロッカスからすればそこがまた魅力的でもあった。





「今日は1日晴れかな」





ふわふわとしたクリーム色の髪を風に靡かせながら、ロゼは穏やかな笑顔を浮かべた。





「よかった。最近時期的にも雪ばかりだったから」





すくっと立ち上がると、丘の頂上からしか一望できない王都を眼下に眺めた。国の象徴でもあるお城を見つめると、穏やかに浮かべていた笑顔を曇らせた。





「…この平穏が、いつまで続くのか」





強く吹きぬけた風を体で受け止めて、ロゼは丘を去った。