「……。」

無言で入ってきた誰かは、そのまま僕の方へと向かってきた。

聞き覚えのある靴が床を叩く音。

これは……。

「あら、尚輝の会社の方?」

母が尋ねると、誰かはこう応えた。

「……いつもお世話になっています。」

ひどくか細く、弱々しい声。

聞き覚えのある声、女性だ。

会社の人間なら、室井さんぐらいしかお見舞いに来そうに無いのだが、違う気がする。

これは……。

「絵夢か……?」

僕がそう訊くと、絵夢らしき人物はピクリと身を震わせる。

やはりそうか。

微かに香る煙草と香水の匂い。

そしてヒールの踵の音。

声。

だが何故だろう、誰かと間違いそうになった。