僕が入院して、数日経った。

母はいつものように、着替えを持ってくるがてら病室に訪れていた。

あの一件以降、僕と母の間には微妙というか気まずい雰囲気が漂っている。

梅子の失踪宣告受諾。

それは、梅子が戸籍上死亡者扱いになるという事だ。

確かにそうすれば、祖父の遺産を梅子が居ない分、僕が受け取れる事になる。

しかし、到底受け入れられない。

お金より重い、絆というものがある。

それを棄ててまで、僕は幸せになろうとは思わない。

いや、なれない。

だが、母の気持ちも無下には出来ない自分がいる。

そんな葛藤の狭間が今の空気を作っている。

そんな事を思っていると、母が着替えを置いて、病室を出ようとした。

僕が母に何か言い掛けようとすると、タイミングが良いのか悪いのか、カラカラとドアが開く音が聞こえた。