カツカツと転ばぬ先の杖で障害物を避け、僕に道案内をしてくれる物を探しながら、改札口へと向かう。

途中、忙しそうに早歩きで追い抜いた人と肩がぶつかったが、謝りもせずにサッサと行ってしまった。

最低限の礼儀も失っている現代日本に、怒りよりも嘆かわしさで溜め息が出る。

優しい人、親切な人がゼロではない事が唯一の救いか。

改札付近は流石に人が多く、通い慣れた場所とはいえ、慎重に歩かなくてはいけない。

僕は手探りでポケットからタッチ式の定期を取り出すと、出口を確認して、地上への脱出に成功した。

ここから徒歩十五分位。

健常者なら四、五分で着くかもしれないが、それでも僕には楽な方だ。

再びコツコツと、杖を左右に振り、自分のペースで慎重且つ確実に歩を進める。

聴覚と触覚を研ぎ澄ませれば、健常者の普段となんら変わりは無い。

すれ違う人も、前から来るのか後ろから来るのか分かっていれば、難なく避ける事が出来る。