視覚障害者は夢を見ない。

正確には、途中で失明・弱視の者なら別だが、先天的な全盲者には映像による夢は見ない。

視覚障害者は絵のある夢を見る事が出来ない。

しかし、例え視覚的に表現されなくても、僕らは聴く事が出来る。

だから、音だけの夢であろうと、僕らはそれを「夢を見る」という。

前置きが長くなったが、僕はその時、夢を見ていた。

遠い記憶。

室井さんと食事をしていた時に思い浮かべた回想と同じ夢。

つまりは賑やかな食卓の音が僕の耳元で流れていた。

それが一つ、また一つと消えていく。

最後には、僕が食器を使うカチャカチャという音だけが残った。

僕は、独りになっていた。