それは、梅子が受験を控えた中学三年の三学期前半ぐらいだったと思う。

「お兄ちゃ~ん!」

家に帰るなり僕の部屋にノックもしないで入り込んで来た梅子は、手に紙のような物を持っているようだった。

僕は、ふぅと溜め息を吐くと梅子に一言注意を入れた。

「梅……少しは僕に気を遣ってくれないか?」
「まぁまぁ、いいからいいから!ちょっとこれ"読んで"よ。」

どうやら我が妹は、兄の威厳等、微塵も感じないらしい。

もう一つ息を吐くと、読めと言われた物を受け取り、こう言った。

「読めって……梅、僕は……。」
「目が見えないって言いたいんでしょ?でも、きっと読めるよ!」

梅子はほら、と僕の手を手渡した紙に押し付ける。

その紙には、小さい凹凸があった。

「なんだこれ……点字か!」
「へへへ、図書館で勉強している時に、点字の本見つけたから作ってみたの。」

作ると言っても、専用の機器がなくちゃ難しいだろう。

僕は一体どうやって?と梅子に訊いてみた。