室井さんが不思議そうに、今聞いた単語を頭の中で巡らせている。

僕は慌てて言い直した。

「梅子──僕の妹の名前です。」
「あ、そうなんですか?私の兄は雄次郎って言うんですよ。長男なのに『次郎』なんて変な名前なんですけど。」

一人でクスクス笑う室井さんに対し、僕は心中穏やかでは無かった。

どうかしている、とんだ失態だ。

いくら妹が恋しくなったからって……無茶苦茶なこじつけだろう。

馬鹿げた思考しか出来なくなっている僕は、平静を装っていても母と同じでいい加減参っているのかもしれない。

僕は一度断りを入れて、トイレに向かうと全力で冷水による洗顔を行った。

確実に、最近の僕は何かおかしい。

どうかしている。

妹の事が、気掛かりなのは仕方無いが、何も楽しい筈の食事をぶち壊しにまではしたくない。

絵夢と居酒屋に行った時はこんな事無かったのに。

ハンカチで顔を拭って、鏡がある方を見れども、そこにあるのは暗い闇が広がるばかり。

情緒不安定な時ぐらい、僕に光を与えてくれても良いのではないかと、神も仏も含めて関わってそうな存在全てを呪った。