「じゃあ、もう行くね!」

妹はいつもと変わらぬ元気な声で皆にそう告げると、新天地へと向かって行った。

雰囲気で感じただけの話だが、妹が時折振り返っては手を振り、それに父さんと母さんは一言二言声を掛け応える。

姿が見えなくなった事を確認すると、二人は家の中へ戻って行った。

僕は妹が向かっていったであろう方をしばらく向き、気持ちの整理が着かないまま立ち尽くしていた。

すると、そっちから駆け足で誰かが来るのが分かった。

妹だ。

忘れ物か何かだろうか?と思い、怪訝な表情を浮かべる僕に、歩調を整えて妹が近寄ってくる。

さらに寄る……近い、もの凄く顔が近いって、と思わず突っ込みそうになる。

慌てて来たというより、走ってきた時の呼吸の乱れだろう。

顔に吐息がかかって、少しドキリとした。

妹はさらに顔を近付けて……って。

(……ちょっ、おまっ……)

まさかキスでもされるのかと思って、硬直した。

しかし、妹の唇は僕の横を通り過ぎ、耳元で止まる。

「……ね。」
「……は?」

囁かれた言葉に、思わず間抜けな声を上げてしまった。

その隙を逃さず、妹は僕の頬に軽く指先で触れた。

期待外れ、残念と思ってしまった恥ずかしさでボッ、と顔から火を吹いた。

「おまっ……!!」
「へへ♪じゃあね!お兄ちゃん♪」

悪戯な笑い声を残して、今度こそ妹は僕の前から姿を消した。