しかし、まさか「飛び込み自殺しそうだったから」とは言えない。

あまりに失礼過ぎる。

どんな言い訳をしたところで、この場を取り繕うのは難しいだろうが。

「……ふ~ん……。」

もの凄く冷めたような声を上げ、女性が怪しむ目付きを向けているのを肌で感じる。

痛いぐらいに。

周りでは、現場を見ていた人達の耳打ちし合いが、僕をさらに追い詰める。

嫌な展開だ。

手にじんわりと汗をかき、血の気が少しずつ引いていく。

冷静になってくると、自分でも何故、だ。

何故、赤の他人に過剰な行動を取ったのか。



"急行列車が参ります。白線の内側にお下がり下さい"



いつの間にか、数分経っていたようだ。

僕も女性も微動だにしないまま、立ち尽くしている。

傍にいた誰かが「─痴漢」「警察に─」という単語が飛び交った気がした瞬間。

女性は手を引き寄せた。

「行こう。」
「は?」

思わず間抜けな声を上げて聞き返した僕を華麗にスルーし、女性はやって来た列車内に僕を連れ込んだ。