―――竜哉side―――


「キャ――ッ! 竜哉様♥」
「竜哉様ー! こっち向いてー!」
「今日もなんてカッコいいの~! あたしと結婚してぇ!!」


紗柚菜を待たせている玄関に向かおうとしていた俺。
なのに、なんなんだ!? この女の波は!
進んでも進んでも、女の波に押し返されてしまう。

ケバイし、香水臭いし。
色んな匂いが混ざってて、だんだん気持ち悪くなってきた。

『ああぁ――っ!! マジ、うっぜぇ!!』

今は王子モードなので、声に出そうなのを抑えて、心の中でそう叫ぶ。


王子モードって言うのは、簡単に言えば表の顔。
こっちの方が、何かと都合が良いからな。
俺は本当の王子なんかじゃなく、王子を演じてるんだ。

この笑顔で話しかければ、女なら誰でも落せる。
アイツ以外は…な。


「みんな、ありがとう。でも、僕、人を待たせてるんだ。道、開けてくれないかな?」

王子スマイルで微笑みかける。
鼻血を出して倒れる者や、「道を開けるのよ!」と指示しだす者、ますますキャーキャー騒ぎだす者もいた。


ハァ――……。
女ってめんどくせぇ。

しかも、なんか今日いつもより人数多くねぇか?
…そうか、ファンクラブの人数増えたわけね。

よくよく見てみると、他校の生徒までいる。
厳重な警備で入れないはずなのに、どうやって入ったんだ?

……女って怖っ。


女で封鎖されていたみちはというと、ファンクラブの会長らしい女のおかげで、やっと見えてきた。


結構近かったんだな。
見えなかったのは、女の量が多すぎたからか…。


やっと見えた玄関付近には、口をポカンと開けた紗柚菜が立っていた。
多分、俺の王子モードの顔が見えたんだろうな。
…それか、女に囲まれてる俺を見て驚いてるか。


どっちにしろ、学園一の美女が大変な顔になってます。