「じゃあ、今度から俺の分も作れよ」


「は? だから、小野塚さんに作ってもらえばいいじゃん。小野塚さんの方が料理上手だろうし…」


あたしなんかより、長年桜庭家に仕えてる小野塚さんの方が良いでしょ。
普通に考えて。


それに、こんな庶民な味、いくら偽だからって、王子に食べさせられないよ…。
ファンクラブに何言われるかわかんないもん。


「…俺の命令が聞けないわけ?」


…ピッピッピ―――。


「なんであたしが、あんたの命令聞かなきゃなんないのよっ」


来ました!
あたしの負けず嫌いレーダー察知しちゃいました。


こりゃ、負けらんないな。


「ふ~ん…。そんな口の聞き方しちゃっていいの? この俺に」


うわっ! コイツ今、めっちゃ俺様!
周りが甘やかすから、こんな男になっちゃうのよ。


誰だ、王子なんて言い出したヤツは!
魔王だ。この人絶対魔王だ!


「…じゃあ、最後のチャンス。弁当、俺の分も作ってくれるよな?」


強い口調で問いかける。
ニコニコ王子スマイルだけど、目が…目が笑ってないです。


あたしは迫りくる殺気に、思わず後ずさり。
気づいたときには、背中にフェンスがカシャンと当たり、目の前には桜庭竜哉。


し、しまった!
あたしとしたことが、自分から逃げ場を失ってしまった!
どうしよう~…。


「断ったらどうなるか…。わかってるよな?」

だから、目が笑ってないって!
その笑顔意味ないって!


「え~っと~…。その…」

「ブ――ッ! 時間切れ」

「はっ!? ちょ、まっ…」

「断ったのはそっちだし、何されても文句言えないよな?」

「え……」



――え~、紗柚菜ちゃん……危険レーダー察知しました……。