【BL】風鈴が鳴る頃に[短編]

「分かった。ほら、あんたはやれば出来る人なんだろ」

「そ、そうだ。だからこんなの直ぐ登って……」


君が細める目に鋭さが増した気がした。……どうやらあまり気が長い方ではないらしい。



「……手、貸して」

「了解」


君に腕をぐいっと引っ張られた。さっきの窪みに足をかけて、ほとんど君に腕を引かれる感じで必死にしがみつく。



「はぁ……はぁッ。
なぁ、凄い疲れたんだけど……」

「だろうな。思わず見惚れちゃうぐらい、いい登りっぷりだったよ」


ーーんな訳あるかっ。足つっぱらせてしがみつく俺は、何とも可笑しな格好だっただろう。


ほら、ニヤリと笑った顔。
あーームカツク。


「んで、何でこんな高い木に登ったんだよ。俺が納得出来ない理由だったらおこ……」

「花火よく見えんだろ」


俺が最後まで喋る前に、君が言葉を被せてきた。えっ、花火がよく見える、だって??


[ バンバンバンッッ ]


丁度盛り上がりをみせながら派手に打ち上がる花火。そろそろ花火大会も大詰めか……。
って、それだけ……??



「花火見んの初めてなんだ。高い方がよく見える」


そう言って君は、目を少し細めながらじっと花火を静かに見つめる。



「イオ、……花火って綺麗なんだな」





いつもの澄まし顔からは想像出来ない、少し無邪気な顔。
……本当ずるい、お前。



俺、お前に聞かなきゃならない事いっぱいあんのに。



名前だって知らない。
……キス、なんでしたんだよ。



いつの間にか、吸い込まれるように花火を見ていた。会話と言う会話はほとんどなかったけれど、不思議と居心地だけは良かった。