俺が駆け寄ると、君は一番低いと思われる枝まで降りてきた。そんな一つ一つの何気ない動作でさえ滑らかで、つい目を奪われてしまう。
「今すぐ登ってこい。木登りの経験はおありですか、ぼっちゃん」
さっきと同様、執事口調で楽しそうに、言ってのける君に俺はただ、ポカンと口を開ける。
(あれ、確かさっきこの人にキスされたん、だよな……??)
「なんだ、もしかして登る体力もないって訳か。困ったぼっちゃんだ。手、貸してやるから早くこい」
ちょ、ちょっと待って。登るの決定事項なんだ……ってそうじゃない。
なんかこの人普通過ぎやしませんか?
さっきまで話してた時の君となんら変わらない。
変に焦ってた自分が馬鹿みたいで、ズルズルと幹を背凭れにしゃがみ込む。
「……なぁ、なんでいんだよ」
「はぁ、さっきからいただろうが」
「先に帰ったのかと、……分かったよ。登ればいいんだろ、手とかいらね」
ここで言い争っても無駄だ。それにやっぱり、近くで話さなきゃ意味もない気もするし。
のろのろと起き上がり、まず幹の窪みを探す。ここだ、と思った窪みに足先を引っ掛けた。
ーーが、ずるっと滑った。
ま、そんな簡単にいかねーわな。てか木登りとかいつぶりだよ。
生憎今日はサンダルだ。足元が滑りやすいのは当然な訳で。
「……クッ、あんた登れないの」
「登れるわッッ。馬鹿にすんなよ!!」
ーー足をかけた、けど滑った。
「クソッッ、足かけにくいんだよっ。この木滑って…」
「手、貸してやろうか。ひょろひょろ君」
「お前が言うほどひょろひょろじゃねーよ!」
いっそ脱いで登ったろか……。滑るよりマシな気がしてきた。
ムシャクシャしながらサンダルに手をかけようとした時。
「あんた馬鹿なの」
上の方から、何故か不機嫌そうな声が降ってきて。
声と同時に伸びてきた君の手は、あきらか俺に差しのべられている。
「……俺、スポーツテスト毎回Aだから」
「はいはい」
「こんなの本当は余裕で登れるから」
「今すぐ登ってこい。木登りの経験はおありですか、ぼっちゃん」
さっきと同様、執事口調で楽しそうに、言ってのける君に俺はただ、ポカンと口を開ける。
(あれ、確かさっきこの人にキスされたん、だよな……??)
「なんだ、もしかして登る体力もないって訳か。困ったぼっちゃんだ。手、貸してやるから早くこい」
ちょ、ちょっと待って。登るの決定事項なんだ……ってそうじゃない。
なんかこの人普通過ぎやしませんか?
さっきまで話してた時の君となんら変わらない。
変に焦ってた自分が馬鹿みたいで、ズルズルと幹を背凭れにしゃがみ込む。
「……なぁ、なんでいんだよ」
「はぁ、さっきからいただろうが」
「先に帰ったのかと、……分かったよ。登ればいいんだろ、手とかいらね」
ここで言い争っても無駄だ。それにやっぱり、近くで話さなきゃ意味もない気もするし。
のろのろと起き上がり、まず幹の窪みを探す。ここだ、と思った窪みに足先を引っ掛けた。
ーーが、ずるっと滑った。
ま、そんな簡単にいかねーわな。てか木登りとかいつぶりだよ。
生憎今日はサンダルだ。足元が滑りやすいのは当然な訳で。
「……クッ、あんた登れないの」
「登れるわッッ。馬鹿にすんなよ!!」
ーー足をかけた、けど滑った。
「クソッッ、足かけにくいんだよっ。この木滑って…」
「手、貸してやろうか。ひょろひょろ君」
「お前が言うほどひょろひょろじゃねーよ!」
いっそ脱いで登ったろか……。滑るよりマシな気がしてきた。
ムシャクシャしながらサンダルに手をかけようとした時。
「あんた馬鹿なの」
上の方から、何故か不機嫌そうな声が降ってきて。
声と同時に伸びてきた君の手は、あきらか俺に差しのべられている。
「……俺、スポーツテスト毎回Aだから」
「はいはい」
「こんなの本当は余裕で登れるから」

