「……あ、れっ、マジでどこ行ったんアイツ……」
目の前に君の姿はない。
え、それじゃあこれってキスして逃げられたってこと?!そんな馬鹿な。ありえるかっ。
「……おい」
俺しっかりしろよ!!
まず常識的に考えて、男同士でキスだとか、それって大きな誤ちだぞ。
まてまて、落ちつけ。誰にも見られていなければ、これってまだセーフなのか……?
(実はあれ、全部夢だったんじゃ……。暑さでとうとう俺の頭もイかれちゃった系な)
【 現実逃避タイム 】
「どんだけだ、マジ……」
ガクリと全身の力が抜ける。
理由聞けなかったじゃん、情けねえー。
「………すんなッッ」
……あれ、何か一瞬声が聞こえた、気がする。
「あんたって耳も悪いんだな。……たく、何度も呼んでんのに無視しやがって」
ーー今度ははっきり上から聞こえる。
「なっ……何?!え、上?!!」
上の方をぱっと見上げると、視線の先に花火がバンッバンッと弾けるように浮かんだ。
すると今度は呆れたように、はぁと深いため息。俺はその声に集中して、今度は慎重にその方向へと振り返える。
あ、なーんだ、まだ居たのか。
って、ぇえ゙ーーー!?
幹が立派なあの木の上に、何故か君がいるではないか。しかも無駄に絵になっている。思わず目をこすって、瞬きを繰り返してしまったぐらいだ。
ーー少し太めの枝に掴まり、片足を立てたような状態で座っていた。もう片方の足は枝から無造作に下ろしている。
あの木にいつの間に登ったんだとか、何でそんな高い所にいるんだとか、単純な質問が頭の中をグルグル巡る。
君が手招きするような仕草をするので、行かない訳にもいかなさそうだ。俺もはぁ、と小さく息を吐くと君がいる木の元へ小走りで駆け寄った。

