「背中を、押す…?」


 僕は首を傾げて言った。


「言ったろ。ボクだって怖いんだよ」


 君は泣きそうな顔で笑ったまま言った。


「……っ」


 僕は――僕は、何も言えなかった。

 疲れた顔で、泣きそうな顔で、笑った顔で君は目を閉じた。

 もう長い間、僕を励まして引っ張り出そうとしていた君が、力尽きたように座り込んでしまった。

 君のSOSに気づかずに、僕は僕の事しか考えずにいたから。

 誰だって、疲れる。強い時があるから、弱い時もある。

 君だって僕と同じだった。

 出口に焦がれ、泣きだしそうなのを堪えて踏ん張って、不安も希望も抱えて、笑っていた。

 どうして気付いてやれなかったんだろう。

 駄々をこねて、泣いて、困らせた。

 先に進もうと言う言葉を掻き消した。


「……ご…め……ん。ごめん…。ごめん…っ」


 怖かった。動きたくなかった。また傷を負うのが嫌だった。

 それじゃ事態は何も変わらないって分かってたのに。

 君だけはずっと僕の傍に居てくれるのに。

 君を信じて歩き出せば良かった。

 そうすれば君がこうして傷つく事も無く、笑っていたかもしれない。

 出口に、辿りつけたかもしれない…。

 僕はもっと、君の事も考えるべきだったんだ。


「ごめんなさい…。ずっとずっと、頑張ってくれて…ありがと…」


 少し休んでいいよ。そうだね、今度は僕が背中を押す番だ。

 頑張らなくて良かった。ただ、忘れなければ良かったんだ。

 君がいるって事を。僕が在るって事を。