辿りついたそこで、彼女はしゃがみ込んでいた。

 俺はゆっくりと近づいては、跪く。

 彼女は泣いていた。その涙を拭ってやろうと指を伸ばせば、拒絶される。


「帰ってくれ……」


 か細く、今にも消失(き)えてしまいそうに言い放った。

 俺は伸ばしかけた指を引っ込めて、拳にした。


「外、行こうよ。すっげー天気良いんだぜ?」

「行かない。帰れ」

「帰らない。独りで泣くんでしょ? だから帰らない」

「………っ」


 涙で濡れたその目で、キッと睨みつけられる。

 怒っているんだという彼女の意思表示なんだろうが、俺にはその目の中に怯えが見えた。

 だから怖くも何ともない。


「馬鹿だなぁ。独りで泣くより、誰かの胸で泣くほーがスッキリするんだぜ」


 頭をガシッと掴んで胸に押しつける。

 びっくりしたのか暫くそのままでいて、状況を理解すると抵抗を見せた。


「放せっ。やめろ、私に関わるな!」

「放さないし、俺は関わるのをやめない」

「~~~っ!! ふ……っ」


 それから少しして、彼女は泣き始めた。

 さっきまでの抵抗が嘘のように、しっかりと俺にしがみついて。


「うああぁぁぁぁっ」


 悔しいんだよな。分かるよ。だからたくさん泣けよ。

 そしたら、少しはその悔しさも流れてくれる。


「死にたくない……まだっ、やりたい事があるんだ……!!」

「うん」

「何で私なんだ…。何で……こんなっ」

「うん」

「死にたくない…っ!!」

「う、ん」


 目頭が熱くなる。寸前で堪えてた涙が零れる。

 ずっと見てた。だから分かる。

 君にはもっとやりたい事がある。


「大丈夫。俺が…」


 傍に居るから。その言葉がうまく声に乗らなかった。

 出来るなら少しでも彼女に優しい日々が訪れるように。

 そう祈り、願うしか俺には出来なかった。