その夜も、いつも通り「私」は遅番のバイトを終え、愛想笑いですり減らした魂と身体をベッドの上に投げ出した。
 珍しくまだ暗いうちに床に就いた「私」は、その「気配」に気付いた。誰かがこの部屋にいる。一人暮らしの、六畳一間のこの部屋に、「私」以外の何者かが闇に紛れ、息を潜めている。そして、「私」を見ている。
 夢かと思い、その夜はそのまま眠ったが、事態はそれほど簡単には収まらなかった。なんと、その夜からしばらくの間、毎晩のように「気配」は「私」のアパートの闇の中に現れ、「私」に視線を投げているのだった。
 幼い頃から他人に見られることをあまり心地よく思わなかった「私」は、視線に対して異常なほど敏感に反応することがある。人に見つめられるのが嫌いなのだ。「私」がその頃毎晩経験していたのはその感覚だった。

 やがて、視線と同時に身体が動かなくなる、と言った深刻な状態にも陥るようになり、これはどうしたことだ、と薄気味悪く思っていたのだった。