ふと、松林側に目を奪うものがある。最初は何かの標識だと思った。

 それは「卒塔婆(そとば)」だった。

 「私」は目を見張り、言葉を失った。
 花を添えるための台のようなものと、粗末な湯飲みがその上にあった。卒塔婆も、その足下の諸々の付帯物も、よほど長く放置されていたらしい。砂と日差しに削られ、雨と風に蝕まれながら朽ちるのを待っている。実際、卒塔婆の足下はほとんど砂に埋もれている。

 いつの頃からか「私」が身に付けた感覚、恐怖でも嫌悪でもない、「身震いするほどの侘しさ」、もしくは「寂々(じゃくじゃく)たる戦慄」。
 その風景はその感覚を当てはめるに十分な、凄味のあるサビシサを持っていた。