「私」は背後から凄まじい力で引き戻された。見れば、腕といわず脚といわず、体中に無数の「手」が絡み付いていた。暗闇から、霞の様に湧いてくる「手」。肘から先しかない「手」。それが、「私」を掴んでいる。
「わかったよ。」
 「私」は意外なほどすんなりとその言葉を吐いた。理由は簡単だ。「私」を掴まえるのであれば、「私」よりも力のあるものだろう。人ならぬ存在になった「私」であっても、「異界(霊界、という言葉は、どうも好きになれない)」の格付けで行けば最下層だろう。そういったことを考えて、「私」は「手」に従った。
 正にしぶしぶ「我が肉体」に戻ろうとした瞬間、である。
 横たわった視界の片隅に「私」は見た。「手」どもの正体を、そして、夜毎「私」を見つめていた「気配」のカタチを。
「君は…、」
 見たことの無い「少女」だった。
 生きた肉体に融合する瞬間の息苦しさとともに、見えない何かを見る力が失せていく。「少女」の姿も掻き消えていく。「私」の視界の片隅から。