その浜辺は「私」の特等席だ。海水浴場でもなければ、漁港でもない。釣り人も滅多に来ないし、風光明媚な観光地とも違う。民家もはるか遠い。
 この街の真ん中を流れる川の終点であるが故に、清水流るるという訳にはいかない。河口からの川の流れと海流とが複雑にぶつかっているとかで、特に河口の北側は海底が遠浅から急激に落ち込んでいるらしく、常に波が高い。おかげでサーファーには人気がある。

 河口を挟んで南側と言うのが、これまたなんとも言いようがない。枯れていると言うか、荒れていると言うか、とにかく北側以上に「放っとかれている」感じなのだ。
 南側の浜は一番近い集落から濠できっちりと分かれている。更に濠から海側には下水処理場があって、そのまた向こうに防砂林がある。そしてやっと浜辺に出る。何も知らない人ならば、とても浜に出られるとは思わないだろう。何しろ整備された道は下水処理場までで終わっているし、その先はスポーツカーならひとたまりもなく腹を擦ってしまうような濠沿いのひどい道を1キロ以上も行かねばならない。おかげで平日の昼間など、真夏でどんなに天気が良かろうとも人っこ一人いないのが普通である。「孤独を味わう」ならば南側がすこぶる良い。

 「あの日」の風景もそんな場所の片隅で、そっと起こったことであった。