学校の古びた図書館には、ケンジ一人っきりであった。


ぼんやりと古びた電灯に照らされた机の上にケンジはシャープペンシルを置くと、ぼんやりと窓の外を眺めた。




雪が降っていた。




昨日まで一緒にいた裕美は、もうここにはいない。


野球漬けでろくに勉強をしてこなかったケンジに、丁寧に笑顔で教えてくれた彼女は、もうここには来ない。




彼女は、雪が好きだった。





きっとこの光景を見たら、嬉しそうに笑ったであろう。


勉強をするよう促すケンジを見て、すまなそうに笑ったであろう。





彼女は、いつも笑っていた。



ケンジは、寂しそうにうつむいた。



ケンジの隣の席は雪明りを浴びて、冷たくぼうっと光っていた。



彼女は、もうここに座ることはない。


彼女は、もうここに座ることはない。







彼女は。







もうここに座ることはない。