今日の、ライブのお礼を事細か
に書き終えたボーカルはカバン
の整理をはじめる。

「ギター、はやく帰ろ」

「おう」

サングラス、否、ギター。
呼ばれたギターは紙コップの中
を急いで飲み干す。
それに続いてドラムのスティッ
クを持って立ち上がるのは茶髪
の男。

「ドラムも一緒に帰る?」

「ああ。今日はシチューが食べ
たい気分だ」

「この夏にシチューなんか食べ
るわけないじゃん。せめて、カ
レーだよ」

ドラムは茶髪をさらりと掻き上
げてから、ボーカルを見る。
カラーコンタクトによって緑に
染まった瞳が長い間ボーカルの
加工されていない黒目を見つめ
ている。

「わがままゆーな」

コツン。
頭を肘で攻撃して視線をずらす
が、ドラムは無表情のまま。

「んだよ」

眉を真ん中に寄せて、いかにも
不快ですのアイコンタクト。
それを見兼ねたギターが2人の
間に無理矢理入り込む。

「まあまあ。ドラム、なんでそんなにボーカル見んだよ」

「こいつ、疲れてんぞ」

「つかれてないし、元気だよ」

「ちゃんと休めよ」

「元気だし」

むーっと頬を膨らます
子どもの意地の張り合いのよう
に睨み合う2人の間にはいるの
は、唯一の女性。
オレンジの髪を持った彼女はけ
わしい顔でドラムを見る。

「あんたねー、わがまま言わな
いでよ。ボーカル困らせないで
ちょうだい」

「オカマは黙ってろ」

「むきー!!」

女性、修正してオカマのベース
は、ぐちゃぐちゃと髪を掻きむ
しってボーカルを見る。
まるで助けをもとめるような、
そんな目線。

「ベース。もういいよ。帰ろ」

「うん」