柏の木の近くには
 愛しすぎる”あの人”がいた。


「やっばー!今日もかっこいい!」
「よかったね~間に合って。」

 ”あの人”とはあたしの好きな人

 あたしのことを知られてもいないし話したこともない。
 ただ一方的にあたしが恋してる。


「滉平さん、やっぱりかっこいいね。」
「やめてよ!あんたは夏くんがいるでしょ!」
「ごめんごめん、でも、胡葉が見てもかっこいいと思うよ。」
「知ってる~」

 崎原滉平さん。

 あたしの最も尊敬する人でもあり、あたしの好きな人でもある。

 




 あたしが滉平さんを好きになったのは高校1年の冬。
 滉平さんは2年生ながらも全国ユースから選抜の声もかかっていて
 体育館には毎日たくさんの女子が練習を見に来ていた。

 はつらつと自分のプレーを突き通す姿、
 ちょっと茶色い髪の毛に光る汗、
 シュートを決めたときの笑顔、

 全てがかっこよく見えて
 あたしはあっさり虜になってしまった。



 でもあたしが知ってる中では滉平さんは彼女を作っていない。

 あたしの通う、聖楊高校のミス・聖楊も一時期好きだった、と言う
 噂もあったけど告白してあっさり振られたらしい。

 
 
 だからあたしも、行動に移すことはしないことにした。


 
 
 引退した今でも、たまに部活には顔を出すらしいけど
 男子バスケット部と女子バスケット部は前半後半で
 外練中練と分かれちゃってるから
 もうほとんど滉平さんのバスケをしてる姿を見ることはない。


「ねえ、滉平さんシューズ持ってない?」
「ほ…ホントだあ!!!」
 
 滉平さんの右手には青い袋、
 有名なブランドのロゴ入り。

「今日部活来るのかな…?」
「来るかもよ!!やったじゃあん♪」




 いつもは暑くて、だるくて、やりたくない部活だけど


 今日は授業なんかより、はやく部活に行きたくて仕方なかった。