届くはずがない。


そう思ってた君の右手に


あたしの左手が届くまでの距離は


そう遠くはなかったね――― 
             







    







「胡葉、まって~」
 
 バスケの朝練が終わって体育館から汗を流した人がぞろぞろ出て行く。
 外に出ると妙に生ぬるい風が体を抜けた。

「あっつ~、こんな時期に朝練ってどうなの~」
「ほら、また憩は文句ばっか言う。」
「だってさあ…」

 親友の胡葉は小学校からのバスケ仲間。
 胡葉は頭もよくて、運動神経もよくて
 あたしの400倍くらいモテる。

 もちろんバスケ部の4番を背負っているのも胡葉だ。
 
「あ、夏くんおはよ」

 夏くんというのは胡葉の彼氏、小林夏希。

「おはよ、このちゃん」

 もう1年ちょっと付き合ってるだけあって不自然なそぶりは全くない。
 あたしもこんな風に一緒にいられる彼氏がほしいな、

 

 夏くんと分かれて教室に入ると胡葉とあたしの特等席の
 理科室のベランダまで走った、

「今日も見るんだもんね?憩。」
「う…うん。」

 理科室のベランダは玄関の真上、
 だから登校してくる生徒がはっきりと見える。

 あたしは今日も”あの人”を見に来た、

「今日は遅いね~、」
「え~、いつも遅刻ギリギリじゃん。」
「あ!まさかのあれそうじゃない?!うわさしてる矢先に来たよ、憩!」
「え、どこどこ?!?!」
「ほら、あの柏の木の近く!!」


 あたしは柏の木に目をやった。