「人に入りたがる奴らがいたね?
それと同じように、
人になりたがる奴らもいるんだよ。
だから同じ姿をしていても、
それが本当に本物なのか。
それこそ本人にしか解らない。
こんな場所だから尚更ね」
振り返ると、
教室のドアのふちに、
安藤先輩が背を預けて立っていた。
あの頃のままの姿で。
「影がこっちに連れてくるのだって、
もしかしたら、
その人物に成り代わりたいから。
なのかもしれないね。
だけど困った事に、
相手を連れてきてしまったら、
その人物の影もこちら側に出来る。
折角そっくりになれても、
向こう側へはもう行けない。
馬鹿なんだよ、影ってのは。
そういう事だとすると、
俺も本物かどうかは怪しい。
そう思われるかもしれないな。
けど安心しなよ、嘘だから」
俺は俺さ。と、
笑いながらこちらへ歩いてくる。
「佐野君……大きくなったね、
今いくつなの?」
久しぶりに会った親戚のような
そんな口調で尋ねられた。
「そりゃ成長しますよ。
何年経ったと思ってるんですか」
「さあ?
いつの間にか時間なんて、
気にならなくなってくるんだ」
やあ不思議不思議と、
呑気に笑って見せた。


