「さ、行こうか」
そう言って背中を押してくる。
「や、でも南葉が……」
「もう遅いよ」
……それ、どういう意味ですか?
変な事を言わないでほしい。
抗議しようとした時、
階段の下から、声が聞こえてきた。
「遅いよ」
それは、まぎれも無く南葉のものだった。
実は先に下の階に行っていたのか。
先輩はその事に気づいていたから?
戻っても意味は無いと言う事だった?
声の方へ明かりを向けると、
そこには確かに、南葉が立っていた。
「先、行きますよ?」
そう言って南葉の姿は、
また暗闇の中へと消えていった。
「ちょ、待てって!」
暗いのに。
何も見えないだろうに。
南葉はどうして、
1人で行ってしまうんだ?
慌てて追いかけようとすると、
今度はさっきとは逆に、
先輩は俺の体に腕を回し、
身動きを取れないようにしてきた。
「……何するんですか」
そう尋ねると笑って、耳元で囁いてきた。
「こんな噂を知ってるか?」